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シアターガイド2月号(2003年1月2日発売)

インプロフェスティバル日本初開催
欧米では一般的だが、日本でもここ数年人気を集め始めているインプロ・シアター。いよいよ、2月1日〜14日に六本木のバー・イズントイット、ぶーく人形劇場など数会場で、初の「東京インプロフェスティバル2003」が開催される。インプロとは、事前の打ち合わせや台本はなく、観客のアイデア(言葉、状況、人間関係など)をヒントに演じ手がその場で物語を始めていく即興劇。今回は16団体22公演の参加で、インプロの楽しさ、バリエーションを披露する。 
ダカーポ(2002年12月18日発売)


東京インプロフェスティバルの参加者が写真入りで掲載されています。

即興劇の発想・思考法で自分が変わる!
マイクロソフトやhpが社員研修に採用する「インプロ」に入門だ!

Q 三角と言えば?
A おにぎり
Q 紅葉(もみじ)と言えば?
A ……(うーん)
Q では、風船と言えば?
A ……(う、うーん)
 速射砲のような「と言えば?」攻撃に、隊員はタジタジ。紅葉(もみじ)と言えば? と聞かれ、反射的に頭に浮かんだのは「紅葉(こうよう)」。これでは正しい連想ではない気がして、口をつぐんでしまった。風船の場合も、「ゴム」と思ったが、いくらなんでも子供っぽい答えだと感じ、これまた「……」。最初に浮かんだ言葉を否定すると、案外次が出てこない。パニック状態だ。
 インプロという芝居をご存じだろうか。観客のアイデアをその場で舞台化する即興劇。欧米ではかなりポピュラーで、日本でも今浸透しつつある。台本も事前の打ち合わせもなく、観客からのひとつの言葉やタイトル(物、場所、状況、人間関係、職業など何でも)をきっかけにして役者は物語を作らなければならない。頼りは演じ手のイマジネーションのみだ。
 この即興で何かを作りだしていく、というインプロ・シンキングがビジネス業界で注目されている。「次々と押し寄せる新しい出来事や、顧客や同僚の様々な言葉にすばやく対応し、的確に判断をくだし物事を前に進めていくために最適のスキルです。アメリカではマイクロソフトやヒューレット・パッカードなどのグローバル企業によっていち早く採用されています。なぜか?それはビジネス社会にも即興劇同様に、台本というものがないからです」 と語るのは、インプロ・ジャパンの秋山桃里さんである。 300以上ゲームがあるインプロの初歩の初歩。最初に浮かんだことを言ってください、とやってみたはいいもの、あのザマ。実は自分の頭の中で紅葉と紅葉は一緒なんじゃないかと考え躊躇したことを告げると、こう言われた。
「こんなこと言ったらおかしいのではないか、正しくはないのではないか、常識的じゃないのではないか。私たちはそういうカギを無意識のうちに掛けてしまっているんです。斬新なアイデアや独自のひらめきは、こうした頭のフィルターを通過する前、要するに瞬間的に感じたことこと、直感的に思いついたことの中にあるんです」
 だから、「たぬきと言えば?」と聞かれ、「ベルサイユ宮殿」と答えてもおかしくないし、「近所のおじさん」でもいいわけだ(ま、フツーは「そば」とか「きつね」なんでしょうけれども)。
 稽古をしていたインプロ歴7年の飯野雅彦さん(32)がそばにやってきて、
インプロのウォーミングアップゲームである。と連想ゲームをやってみてくれた。最初「カレー」という言葉から思い付くことを考え、その後も前の言葉から連想していく。
「はい行きますよ」と飯野さん。「カレー」→「インド」→「手づかみ」→「小銭」→「肖像画」→「横顔」→「履歴書」→「楷書」→「正月」→「習字」→「1日1善」→「日本船舶振興会」→「プール」…という具合だ。
 さて、こうしたインプロシンキングの果てには何があるのか。本当にビジネス的効果はあるのか?
「今までの例から言って、物事を様々な角度から柔軟にとらえるようになり、変化を恐れず瞬時に、積極的に行動できる人間になれます。自分とは違う意見はアイデアも多様性と受け入れ、周囲と協力してアイデアを発展させていくようになりますね」(秋山さん)
 一方、飯野さんは……。
「すごく前向きな考え方になったと思う。楽天的に。日本にはボケ-ツッコミという関西発祥のお笑い文化、ひいては人間関係の法則のようなものがあります。それはいいのですが、ボケ-ツッコミは基本的に相手を『何やってんねん』と否定するメカニズム。少しネガティブなんです。それに対して、インプロはどこまでも前向き。相手の言葉に対して、決して『いいえ』とは返してはいけませんから。『YES AND』が基本です。そういう考えにこんなアイデアをプラスしてみたらいいのでは、と互いに話していく思考に慣れてくると、相手の話をよく聞くようになるし、集中力、観察力、アンテナ(情報察知)力が増えている気がします」
 小泉首相、どん底経済ニッポンの救世主はインプロですよ!?(掲載記事を加筆修正)